●出席者
吉田幸一(神奈川県立七里ガ浜高等学校学校長、同窓会名誉会長)
横尾惠子(神奈川県立七里ガ浜高等学校PTA会長)
酒井康隆(神奈川県立七里ガ浜高等学校同窓会公式ホームページ管理人、5期生)=司会
●場所
2011年1月12日(水)、七高校長室にて
-- 七里ガ浜高校の第14代校長として本年度より吉田幸一先生が着任されて約9ヶ月が経ちました。いわゆる「民間人校長」としての独自の視点を持たれて35年目を迎えた七高の改革に色々と積極的に取り組まれている、というのが同窓会の一員としての私の率直な感想です。その中で学校の社会への発信ということも大いに意識され、私が管理人を務めている同窓会公式ホームページの運営においても、学校長自ら文章やコメントを寄せられ、また行事などの様子を写真も含めて多数提供して頂いており、とても有難く思っております。
このたび吉田校長自らのご提案により、同窓会ホームページに掲載する企画として、本日私が聞き手となり吉田校長に着任以来の取り組みと今後の展望をお伺いします。更に七高PTAの横尾惠子会長にも加わって頂いて、学校・PTA・同窓会の三者による「新春鼎談」ということで進めさせて頂くことになりました。
同窓会HPをご覧頂いているであろう卒業生、在校生及びその保護者の方、これから七高を志望校の一つとして考えている中学生及びその保護者の方、さらには七高の有り様に関心を寄せられている地域の方に対して、七里ガ浜高校の過去・現在・未来を大いに語って頂きたいと思います。
最初にPTAの横尾会長について簡単にご紹介させて頂きます。3人のお子様がそれぞれご長女は27期卒業生、ご長男は29期卒業生、そしてご次女が33期生として現在3学年にご在学中です。ご長女が七高に入学された2002年度以来1年間を除いて8年間七高PTA会員であり、その間4年間は学年成人委員会委員として、更に昨年度と本年度の2年間会長を務めておられます。七高在校生の保護者の一員として、またPTAの役員としてここ数年の七高様子を間近でご覧になってきた方ということになります。
では吉田校長、横尾会長、よろしくお願いします。
9ヶ月間を振り返って
-- まず最初に、昨年の4月に着任されて以来この9ヶ月を振り返っての、率直なご感想をお聞かせ下さい。
吉田 異動の際に、進学校として七高に対する期待は高く、生徒が意欲的に学べる学校として民間の活力も取り入れながら頑張って頂ければと後押しされて、こちらに赴任しました。
さすがにきちっとした基礎学力を持った生徒が殆どですし、やはりご家庭で愛情持って育てられた子供さんが多いです。ただちょっと心配したのは授業中の受講態度、それと遅刻が多い。又運動会後の初夏には、県民の方からも苦情を頂きましたが、頭髪など外見面において高校生としてふさわしいのかといったことなど、数ヶ月の間様子を見ていて、やはりカリキュラム面や授業時間、そして校則を守らせるといった点も含めて、学校として力を入れていかなければならないと感じました。そんな9ヶ月でした。
-- 運動会や七高祭といった行事などを通じての七高生の印象はいかがですか?
吉田 やはりのびのびとしています。運動会に保護者が2千人も来られるというのは凄いことです。前任の舞岡高校では3百人くらいでしたから。
-- ご両親だけでなく、祖父母の方もいらっしゃることで在校生数の2倍以上になるわけですね。運動会は七高祭と違って公開行事ではないわけですが、生徒たちの盛り上がり、力の入れようというものがこの数字からもうかがえます。
横尾 私も自分の子供に、どうして運動会にそんなに大勢の方が見に来られるのか、と尋ねてみたところ、代々、七高の運動会を楽しみにされているご近所の方がいらっしゃる、その方たちに「今日楽しかった、ありがとう」と声を掛けられると言っていました。だから結構ご年配の方も多いようです。
吉田 今年度は午後雨が降ってきたのは残念でしたが。そういった行事を経て、後期からは学生の本分である学業にきちっと取り組む生徒も多くなりました。学業・部活・行事に夢中になる姿は一番美しいと思います。
-- 新しい試みとして七高祭の際に実施された「七高スマイルグランプリ」はいかがでしたか?
吉田 生徒会が主導でやってくれて良かったと思います。来年度以降、どんな風に工夫して続けてくれるか楽しみにしています。「七高スマイル」は私がモットーとして常に言っている5つの中で3番目のことですが、生徒の心にはこれが一番印象に残っているようです。
来年度からの改革点
-- 来年度からの学校運営上の変更点の大きなものとしては、教育課程の見直しの一環として田中前校長時代に始まって3年間続いた90分授業から50分授業に、及び10年近く続いた2期制(前後期)から3学期制へそれぞれ戻すという2点があり、七高のホームページでも公表されています。これらは従来の運営を踏まえてそれぞれのメリット・デメリットを比較衡量されての結論かと思われますが、その点についてお聞かせ下さい。
吉田 8月の職員会議で「教育環境の整備」と「生徒の自己改革」の2点を出しました。後者は生徒の意識の改革の必要性ですが、前者は主に学校側でやらなければいけないことで、その一環として教育課程の編成をする上で授業時間の見直しが入ってきているという考えです。まず授業時間の変更ありき、ということではありません。
大半の生徒が4年制大学へ進学しますので、3年後もしくはそれ以降のキャリアを見据えて、生徒の学びの保障を学校としてきちっとしてあげなければならない、今まで以上に生徒が希望進路に進めるようなカリキュラムが必要だということが大前提です。
90分授業は県からの指定事業「国語力向上重点推進校」(前年度までの3年間)などにおいて、発表や研究や言語活動の充実ということで大変大きな成果がありました。
ただ4月から授業の様子をずっと見ていると、ちょうど暑い夏に差し掛かったときにどうしても60から90分の時間帯になると、生徒の集中力が少し希薄になってくる印象を受けました。授業の合間に生徒に色々質問してみると、勿論90分授業のほうが良いと言う生徒もいます。授業も充実していますし、1日あたりのコマ数か少ないので持ってくる教科書も少なくて済む(笑)。
我が校の生徒にとってより学びを保障する授業時間はどれくらいがいいのかということを考えました。90分の前は65分授業という時期もありましたが、「学力向上進学重点校」18校の授業時間、前期・後期、それにどういう特色を持って教育課程組まれているかを全部調べてみたところ、授業時間については45,50,65,90分と様々です。七高の場合には生徒の学習力の習得を念頭に教育課程自体が基本50分で作成されているので、それで行うということになりました。
横尾 やはり私の子供に聞いても90分というのは集中力という点から難しいという感想でした。大学の場合は空き時間もありますし、自分で選んだやりたい専門分野の授業ですからやはりそれとは異なります。また先生方の授業の事前の準備といったご負担という点でも大変なのではないかと思います。
吉田 英語や数学など反復学習が必要な教科では、少し日数が開いてまた90分授業となると始めの部分は繰り返しになります。50分授業で1週間に2~3回あるとそんなに復習に時間を取られずに先に進めます。そういった教科の特性なども考えました。
-- やはり学んだ内容の「定着」が大切ということですね。
横尾 また私の子供たちは全員バスケットボール部に所属していたということもあり体育会系で、幸い病欠がほとんど無かったのですが、やはり体力に自信の無い身体の弱いお子さんが風邪やインフルエンザでお休みをした場合、90分授業を1回休むとそれを取り戻すための負担が大きいというご意見が、特に保護者の方から上がりました。
-- 2期制(前後期)から3学期制へ戻すことについてはいかがですが?
吉田 メリットとしては夏休みの活用があります。現在2期制で定期試験は4回しかありません。現在のままでも夏休み前に試験をやって成績を出し、夏休みに部活動などをのびのびやってもらうという考えもあります。また現在の我が校のように9月に試験という日程でも良いのではないかという意見もあります。ただやはり夏休み前にきちっと習得した結果を出して、夏はまた別の学習を生徒にしてもらうのが良いだろうと、夏期休業をより充実させるためには、日本の気候風土と年間の行事計画からすると3学期制の方が馴染み易いのではないかというのが多くの教員からの意見としてあり、それらを参考としました。
3年生であれば夏休み前にある程度成績が出ていてそれを基に進路を決定する、三者面談に臨むのが望ましいかと思いますし、1,2年生であれば夏休み中に不得意な科目を一生懸命勉強する、得意な科目はより伸ばすためにもその前に成績が出ていた方が生徒たちにとってもより充実した夏休みを送れるだろうという判断の下に3学期制にすることにしました。
そうすると行事も変えなければいけない部分が出てきます。来年度は原則として従来と変わりませんが、さらにその翌年度(平成24年度)以降については若干の変更も出てきます。生徒会役員とその担当の先生方と協議をして行事の回数だとか時期だとかなどを検討してもらっています。
-- 全国的に2期制から3学期制へ戻る傾向があるということは新聞報道などでも最近目にするところです(例えば朝日新聞2010年7月2日夕刊1面)。
生徒達にとってはいわゆる3大行事の運動会、七高祭、合唱祭がどうなるかというのが一番気になるところかと思いますが。
吉田 来年度は基本的には組まれます。ただやはり平成24年度以降については3学期制の中でそれらを全部実施していくのは先生方も生徒たちも大変です。個々の行事を充実させるためには毎年行うのが本当に良いことなのか、学校によっては隔年実施としているところもあるので、これは現在の検討課題です。
-- 従来5月の連休前後に実施されていた遠足などは、現在でも実施されていませんが。
吉田 そうですね、その代わりとして1年生は最初の中間試験の最終日に地域見学会というのを行っています。
-- 6月に実施された2年生の大学見学会もその代わりに近い役割もありそうですね。
吉田 はい。10月の修学旅行が海外なのでまず羽田空港に集合し、その後いくつかのグループに分かれて各大学を見学に行っています。
-- 合唱祭は私が2年在学中に始まり、第1回から第6回までは3学年全体が参加して1学期又は2学期に体育館で実施されていました。現在は卒業式後の3月下旬に1,2年生のみで鎌倉芸術館など外部の会場で実施されていますが、こういった行事も折角ですから行事日程全体の見直しの中で3年生も含めた行事にまた戻ると良いのではないか、などと外から拝見していて思ったりしています。
吉田 そうですね。平成24年度以降は合唱祭について時期の見直しも含め、おっしゃられたように全学年参加とするかどうかなど現在検討中です。
-- カリキュラムの点で今後PRしていきたい特徴などはありますか?
吉田 やはり4年制大学への進学希望者が大半ですので主要5教科の基礎学力と発展的な力を身に付けられるような教育課程にしていきます。学習指導要領が新しくなるので理科などそれに対応が必要ですし、日本史必修化(2年後から予定)という神奈川独自のものも盛り込まなければなりません。
-- 夏休み中に実施されるいわゆる夏期講座も、年々充実しているようですが。
吉田 特に夏期講座についてはメニューを早く出すことが大切です。7月頃に夏期講座これがありますと出されても、大学受験を目指す生徒は予備校の夏期講習に申し込んで支払いも済ませてしまっていますから、5月には出す、取り敢えず講座名だけでも先に出すことを来年度からはやります。
横尾 私も保護者の方から、日程が早めに発表されないと結局は先に申し込んだ予備校の夏期講習の方に行かざるを得ない、といった声を従来お聞きしましたので、是非来年度からは校長先生がおっしゃられたようにして頂けると良いと思います。
-- 私立高校などでは、塾などに行かなくても大学受験に必要な授業はすべて学校側で用意する、ということを謳うところも最近では多いです。
吉田 こういう社会情勢ですし、公立高校でも最低限のことは学校でやっていくと、金銭面では出来るだけ保護者の方のご負担をかけないようにすることが必要です。
来年度からは横尾PTA会長のリーダーシップの下、エアコンが導入されるので、それによって夏期のより快適な学習環境が整い夏期講座を今まで以上に充実させることが可能になります。連日、校長も含めて全員講座を持つことにしていますので出来るだけ多くの生徒に受講して欲しいです。英語や数学などにちよっと苦手意識を持つ生徒の補習の意味でも講座は必要ですし、また部活などを熱心にやりすぎてやや成績不振になりがちな生徒たちへのフォローもきちっとしていきます。
横尾 エアコン導入に関してはPTA役員の皆様の多大なバックアップにより実現することが出来ました。
夏期講座については私の子供達も夏休み中、バスケット部の練習の合間によく利用していたようです。他の部活動との兼ね合いで例えば体育館が使えるのが午前中と夕方からの場合には、午後の講座を受けるなどしていました。
また生徒達が先生方にお願いして自習室になっている会議室(南棟2F、職員室の向かい)にて1対1で熱心に教えてもらっている姿を多数見たというのも、夏休み中の出来事として印象に残っています。
-- 来年度以降、新たに計画されていることなどございますか?
吉田 来年度の新入生(36期生)には3月中旬のの合格者説明会の段階できちっと課題を出して新学期まで2週間の空白の時間を作らないようにします。その課題では七高で何をやりたいかという作文や英語・数学・国語・社会・理科のテキストを配ってここを予習してきて下さいという内容になります。
また4月に2日間程日程を取って合宿形式(宿泊はしませんが)で新入生対象の学習オリエンテーションを実施します。これまでも校内で行っていましたが外部の会場を借りて全日程で集中的に行います。模擬授業も行い、高校の授業はこういう内容で、こういう勉強をして欲しいというものを提示します。4月から余り空白を置かずにきちっと行うことが大切です。
-- まさに「鉄は熱い内に打て」ですね(笑)。
また七高の学級編成上の特徴として各学年の入学定員が1,2年の場合280名で本来ならば40人×6学級ですが、それを35人×8学級(3年は240名で30×8学級)と1クラスあたりがより小人数の編成になっています。2003年度から実施されていますが、これは今後も継続されるわけでしょうか?
吉田 はい。この少人数多展開は来年度以降も継続して、木目細やかな指導をしていきます。
-- ところで県教育委員会は2007年度に「学力向上進学重点校」としてまず10校を指定し、3年を経て本年度からは8校増えて18校になりました。私が吉田校長とこれまで折に触れてお話させて頂いている中でも現在の指定が次に見直される3年後には七高がここに入れるようにしたい、とおっしゃっていますが、これは校長のいわゆるマニフェストとして掲げられていると理解してよろしいのでしょうか?
吉田 はい。すでに昨年5月の段階で教職員全員に、進学重点校に3年後には入るための準備をしていきたいと言ってあります。
-- 3年後の実現に大いに期待しております。
先程お話に出た「国語力向上重点推進校」は県教委が2006年度から始めた「学力向上推進及び特色ある県立高校づくり推進事業」の一環であり、その一つとして七高が指定を受けていたわけですがこちらは前年度で終了し、本年度から3年間で新たに始まった「県立高校教育力向上推進事業指定校」はこの「学力向上進学重点校」18校も含め全部で120の県立高校が指定を受けていますが、そのリストに七里ガ浜高校の名前がなかったのは卒業生としても少し残念な気がしました。
キャリア教育の充実に向けて
-- では進学重点校に入るための具体的な方策として考えられていることをお教え下さい。
吉田 2つあります。ひとつは教育環境の整備ということで、カリキュラムを変えてキャリア教育を充実させながら、ただ良い大学に進めば良いというだけではなく、自分の人生観を見つめてもらってその中で大学というのがあると思います。そういうことをきちっとやって行く上で、授業が分かり易い、そして発展的なもので生徒に負荷がかかる形のものでないと、仲々学力というのは身に付かないと思います。これについては県の様々な機関、総合学習センターや高校教育課の指導主事に授業を見に来て頂いて、専門的な立場からアドバイスを頂けるようにしていきたいと考えています。
もうひとつ、生徒の意識改革のところですが、いくらシステムや枠組みが出来ても、生徒自身が自らがやっていくという気持ちがないと、特に勉強の場合は身に付きません。やはり3年後どうしたいのが、逆算して今どうすべきなのか、を真剣に生徒に考えてもらうという意味で行事や部活動を一生懸命行えるような取り組みもします。
その上で学習に取り組むということからしますと、時間はきちっと守ってもらう、朝の時間だけではなく、授業の移動時間も含めてです。そして校則に定められている服装・頭髪その他色々なことも守っていくことを学校として取り組んで行かなければなりません。生徒も何でも自由で良いということではなく、高校生なのですから校則があったり保護者の方からいろいろと言われるのは当たり前のことですから、その範囲中での自由ということを自覚してもらいたいです。
-- 具体的に「○○大学何名合格」ということを目標とするわけではないのですか?
吉田 それは基本的には考えていません。特にそれが重点校の指定に直接結びつくわけではありませんので。取り組みの内容、そしてこれからどうして行きたいかという学校としての考え方が大切です。その出口としてこういう大学に何名合格したというのが結果だと思います。ただ生徒に色々聞いてみると、いわゆるMARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)以上の大学には行きたいという希望が圧倒的に多いです。そうであるならばやはりその後押しは学校側としてしていかなければなりません。
-- 指定校推薦についてやはりいわゆる難関・有名大学からの指定が何人あるかというのは、高校受験生に対する大きなPR材料でもあるわけです。本年度だといわゆるMARCH及びそれと同レベルの大学では青山学院、学習院、成蹊、成城、中央、東京理科、法政といったところからの依頼が来ています。今後の更なる拡充が期待されますが。
吉田 指定校の枠は中学生及びその保護者に対するいわゆる「ウリ」なのは確かです。しかしこれは一般受験で実績を挙げて大学側から新たな推薦枠を獲得していくしかありません。
そのためにも6月に実施した2年生の大学見学会のような様々な取り組みを今後もやって行きたいと思います。今年は私も早慶両大学に引率に行きましたし、来年度も連れて行きたいと考えています。
横尾 私の子供達も自分で大学見学に行きましたが、高校側からオープンキャンパスの情報などを流して頂けるとより大学が身近に感じられると思います。
それと一番上の子供の時は、高校に入学してホッとしている時にすぐに進路指導があり、もう大学のことを考えなければならないのかと親としてもある意味ショックでしたが、例えば自分の希望で指定校が無ければ一般入試を突破しなければならない、ということで3年間何をしなければならないかがその時点で明白になったことが良かったと今では思っています。
吉田 また来年度は英検の準会場になって本校で年間3回受検出来るように調整しています。
会長さんが触れられた進路説明会も、これまでは秋に開催していましたが、来年度は5月のPTA総会後に保護者向けに開催します。わざわざお仕事を休まれて学校にいらっしゃる保護者の方もおられるので、出来るだけ学校に関する知識のお土産を持って帰って頂くことが大事です。来年度は2回進路説明会を開催予定です。
-- 入学式・卒業式を除けば、保護者の方々が多数学校に集まるのはあとはPTA総会くらいですから、その機会を色々と有効に活用されるということですね。
最近数年間の卒業生の進路状況を見ていると、全国的な傾向と同じくいわゆる浪人生の比率は激減していますが、ただどこでも良いから大学に入るというだけでなく、七高に進めば自分の志望をかなりの割合で叶えられるといった評価が定着することが大切ではないかと思いますが。
吉田 そのためには、物事に集中するということを常に言っています。
従来から学期ごとに表彰というのを部活動などに対してはしていましたが、本年度から英検、漢検などで一定以上の級を取得した、バイオリンのコンクールで入賞した、またボランティア活動といったこともその対象とし、生徒が努力してきたことを出来るだけ生徒全員の前で披露しています。表彰される側は少し照れていますが、こちらがその理由を説明すると生徒達の間からは自然と拍手が沸きます。つい最近では交通安全のポスターや作文での入賞に対しても表彰しました。
横尾 英検、漢検、スポーツと何でもいいから自分の得意技をまず作る、一つ極めるとそこから伸びるんですね。多方面に力が付いていきます。
生徒達の様子について
-- 部活動全般については、今後の期待も含めてどうご覧になっていますか?
吉田 運動部なら試合に勝ちたい、文化部なら発表会などで入賞したいという自然なところから出てくる気持ちを大切に、日々の練習や稽古をきちっとやって努力してもらう、そのことが人間関係の醸成、チームワークという点からも役立つと思います。積み重ねというものを確実にやってもらいたいです。例えば運動部なら汗流さずして優勝ということはありえないわけで、それは本年度の入学式でも言いましたが学力をつけるにはペンの力しかないということにも通じます。
-- 公立高校の中での制約もありますが、関東大会にとどまらず全国大会への出場の報告もまた聞きたいところです。
吉田 最近ですと、駅伝女子で秦野高校が全国大会10位、同じく男子では多摩高校24位、サッカーでも座間高校が全国大会出場と県立高校も頑張っています。制約があるのだったら効率的にやっていくことで克服して欲しいです。
-- 生徒会活動全般についてはいかがですが?
吉田 かなり自主的な取り組みが目立ち、生徒会本部による四校(鎌倉、大船、深沢、七里ガ浜)連携の高校生サミットでも我が校がリーダーシップを取ってやりましたし、国際交流活動ではインターアクト同好会が積極的に取り組んでいます。鎌倉ユネスコ協会から表彰も受けました。生徒会役員選挙でも立候補者は多く、ちなみに現在の執行部は男子一人だけで会長も含めて女子がほとんどです。
-- 施設の充実と言う点としては来年度からのエアコン設置は大きな出来事ですが、それ以外にはこれも県立高校という制約の中でどうされていきたいですか?
吉田 備品にしても同窓会さんから教育環境整備補助ということでご寄付頂き、生徒の教育活動に利用出来ているのは大きいです。県からの支給を待っているのではなく自助努力でやっていくことが必要で、お金を集めて運用するだけではなく、古くても修繕して使うなどで物を大切にするという意識も生徒に植え付けて行きたいです。
-- 同窓会からの学校への寄付活動で一番古く20年前からさせて頂いているのが図書室への図書の寄贈(年額10万円)ですが、生徒による図書室の利用度などはいかがですが? 窓からの眺めは本当に素晴しいものですが。
吉田 司書の方によると夏頃までは図書室に来ても、携帯でメールやゲームをやったりというのが目立ち、読書に取り組むという姿勢がいまひとつ欠けているようでしたが、受験が近くなった最近ではかなり改善されているようです。
-- 図書室にも来年度からはエアコンが入るとのことですので、施設としての図書室をより一層活用して頂きたいものです。
七高の将来に向けて
-- 吉田先生が着任されてまだ短い期間ですが色々と改革に取り組まれた中で、例えば8月のオープンスクール、11月の学校説明会、さらに冬休み中の学校見学などを通じて聞こえてくる反応などをどう感じていらっしゃいますか?
吉田 11月の最後の学校説明会での中学生の保護者からのアンケートを全部読んでみました。七高が変わってきているということが保護者の目にきちっと映っていることがこちらにも判る記述があり、私が着任以来行っていることが理解されてきていると感じました。学校に関する情報は説明会だけでなくホームページからも見れますし、また口コミで伝わっている部分も大きいと思います。
学校が変わってきているのが一番顕著に現れるのは生徒の様子です。江ノ電の中をはじめとする通学風景すなわち時間、服装、頭髪、マナーなど、それらを先生方が日々耳にタコが出来るくらい言ってくれていますから、そういった意味で良い方向に向かっていると思います。授業態度を見ても夏頃に比べて遥かに良くなっていますし、それには先生方の授業内容における工夫というものもあると思います。
-- 来年度以降、是非こういった生徒に七高に入学して欲しいといった希望のようなものはございますか?
吉田 やはり七高のこの環境を生かしながら3年間充実した生活を送りたいという生徒が来てくれて、勉強も行事も部活動もそして友人達との人間関係にも取り組んでくれる、そんな意欲的な新入生を期待します。私はそういった生徒達の期待に応えられるという自信があります。
-- 今のはこれから七高受検を目指している中学生へのメッセージとして受け取られると思います。
吉田 冬休み中の学校見学では毎日20人くらいの中学生と保護者の方がいらっしゃいますが、私は開始時間の10分前には集合場所の教室に行って、保護者の方とお話をしたり、中学生からも色々と意見を聞いていました。校長が身近にいて、生徒をこういう風に大切にしてくれているのが七高だと、そういうのが伝わると保護者の方も安心して預けて下さることになります。
-- 前期選抜において面接に加えて各高校独自で課している「自己表現活動」ですが、これはかなり高校の独自性が出ると思います。これらに込められた学校側からの意図などはどういったものでしょうか?
吉田 表現力、論理的な思考力、資料の活用などそういったところを見ます。これは今後も充実した出題内容にしていきたいです。文章で書かせることが大切です。
あと6月に近隣の3つの進学塾を回ったところ、その1つから七高の第1希望の生徒数が25%増、第1から第3希望の生徒のいわゆるA値(後期入学者選抜で利用される中学の調査書の数値)がライバルといわれている高校を抜いたと。そこで何か変わったことをやられていますか? と聞かれました。
これはやはり来年度に向けて色々とやっているということが学校のホームページなどを通じて中学生の保護者の方々に伝わっているからだと思います。勿論エアコンの導入も大きいです。学校説明会の時にやはりエアコンのことを話すと、保護者の方からは大きな反応がありました。その一方で生活指導もやりますと言うと、特に女子中学生からは「あれ?話が違うな…」という顔をしたのも私は見逃しませんでした。
-- 中学での先輩から、七高はそこらあたりは緩い、といった話が伝わっているのかもしれませんね(笑)。
吉田 校風の「自由」というものに余りにも尾ひれが付いてしまい、何をやっても良いと、勿論生徒の勝手な解釈ですがそう思われているようですので、そこは今後きっちりやっていきます。
-- 2005年度から学区が撤廃され、それまでは鎌倉市・藤沢市の中学の出身者がほとんどで、撤廃直前の2004年度の新入生はこの両市で85.5%です。ところが本年度の新入生では両市で53.7%、特に地元である鎌倉市は10.3%で4位、横浜市、茅ヶ崎市が2,3位となっています。学区撤廃により時間的には負担のかかる遠い地域からも志望校の一つとして考えらけるようになったことは嬉しいことですし、結果としてより広い地域から入学者が集うというのは、学校の活性化という点からも大きいかと思いますが。
吉田 それだけ学校の特色が広い地域に伝わっているということだと思います。
-- 七高の特色の一つとして「国際理解教育」というのがあります。海外への修学旅行も29期生が最初で、31期生以降本年度まで続いています。韓国・水原(スウォン)外国語学校との姉妹校交流、留学生の受け入れなど幅広いですが、これらの今後についてはいかがですか?
吉田 国際理解教育は今後も推進していきます。ただし留学生については従来10数名在籍していましたが、斡旋団体に日本語の習得の不十分な生徒は本校は受け入れませんとはっきり言ってありますので、現在は人数がその約半分になっています。本校で何を勉強したいかを400~800字で書かせると日本語の能力が如実に判ります。高校によっては留学生は英語の授業だけ出て後は図書室で自習というところもあるようですが、本校では全ての授業に出てもらいますので、片言で日本語を喋れるだけでは却って気の毒です。
留学生を柱として国際理解を進め、韓国との姉妹校交流において異文化、色々な民族、ひいては世界を理解して欲しい。私も校長室便りで世界に目を向けた話を織り込んでいますので、折に触れてそういう話を生徒に伝えて生きたいと思っています。
-- やはり七高生にも刺激となるような留学生の方に、多数来て頂きたいということですね。
吉田 また来年度には鎌倉市の生涯学習課からの依頼で、留学生を中心に国際理解についてのシンポジウムを本校の生徒が中心となり鎌倉市と提携してやっていきます。それから鎌倉ユネスコ協会や鎌倉てらこやという地域のNPO法人さんとも協力して、国際理解の活動も増やしていきたいと考えています。
-- 吉田校長が着任されて以降、地域のフリーペーパーも含めたマスコミへの露出が多くなっているということを感じますし、先日取材させて頂いた鎌倉市在住の卒業生の方もおっしゃっていました。1月25日には在校生がTVK(テレビ神奈川)に出演して学校紹介することも決定しています。私も同窓会のホームページに「本年度、新聞等に掲載された七高関連記事一覧」という表を作成させて頂きましたが、これらについてのお考えや今後更にこうしていきたいといったことをお聞かせ下さい。
吉田 教育活動が県民の方に伝わるというのは大切なことです。それは何もマスコミに出るだけではなく学校のホームページという媒体を使ったり、学校説明会の時に具体的に保護者の方に直接伝えていく、あと地域の会合に出て学校の考え方を述べていくということを続けて行きたいと思います。
-- そういった際に特に気をつけておられること、またポリシーのようなものはございますか?
吉田 やはり校長としての考えをきちんとお伝えすること、その際にただ自分のエゴを伝えるのではなくて周りから七高がどのような期待を寄せられているかという客観的なデータに基づいていつもやっているつもりです。だから学校もこう変えなればいけないということを塾などを回って、本校に対してこういうことが懸念されていることをある程度掴んでそれならここを改善していこうとやっています。マスコミへの対応も自分からこうするというよりも、「変わった校長」いや「話のわかる校長」と言ったほうが良いでしょうか、「社会のことについて明るい校長」がいるから何でも相談してみればどうかといった際には嫌がらずに対応しています。
校務の中で色々なお客様がいらっしゃるというのは実は結構大変です。断ったほうか早いのですが、そうはせずいらした方は全てwelcomeで1時間でも2時間でも対応するようにしています。その結果が先ほども話に出た市役所、鎌倉ユネスコ、鎌倉てらこやといった方々との活動、また様々な取材に繋がっています。窓口を広くしておけばそれだけ学校についての理解が進むのではないかと考えています。
-- 良い意味での「広告塔」となることを意識されているわけですね(笑)。
吉田 はい、そうですね。結果的にはそうなっています。七高の活動が広く社会に伝わるように、自分が先頭に立ってやっていっているつもりです。
-- 私などは在学中から現在まで変わらず鎌倉市に住んでいますが、卒業生の中には地元を離れている方も多く、そういった方にとっても母校の現状を様々な形で知ることが出来るのは嬉しいことだと思います。
吉田 新聞への露出は私が着任してから遥かに増えたのは事実です。他校の校長さんからも「毎月出ていますね」と言われます(笑)。
横尾 地域全体にも喜ばれます。
-- 統廃合などを経て現在、神奈川の県立高校は143校ありますが、その中で七高はどういった存在意義を発揮して行かれたいか、本日のまとめとしてお聞かせ下さい。
吉田 まず、生徒達の学びを保障してあげることです。そこが大前提で「公立だからこれくらいで良い」といった気持ちは私には全くありません。逆に公立だからこそきちっとやっていかなければなりません。
ただ施設や予算面では中々難しいところがあるのも事実で、そこは自助努力で色々な方にご協力頂きながら教職員全員で「生徒達のために」ということでやって行きたいと思っています。
私にとっての「生徒の大切な仕方」というのは、生徒一人ひとりの顔が判り、プロフィールが判るということです。そのために毎月の誕生月懇談会(HAPPY TALK TOGETHER)があり、常に教室に行って生徒と話をしています。それは続けて行きたいと考えています。この9ヶ月でかなり生徒の、まだ120~30人ですが、顔と名前も一致するようになりました。
注記
鼎談中に出てきた七高の学校行事はその殆どを「七里ガ浜高校の2010年度」のページで写真とともに紹介してありますので、そちらをご覧下さい。
鼎談PART1を終えて
当方としても初めての企画であり事前にお聞きしたい項目を多数用意して臨みましたが、吉田校長が熱く語って下さったこともあり、又当方の進行に不慣れなこともあって、この日は時間切れとなってしまいました。まだ学校長にお聞きしたいことも残っておりますので、近日この続きを行い後日掲載いたします(吉田校長におかれてもまだ語り尽くされていない点があるかと思いますので)。
更に同席して頂いた横尾PTA会長におかれては、やはりこちらの進行の不手際もあり十分にそのご発言を伺うことが(特に後半部分において)出来なかったことは大変申し訳なく思っております。ご次女がこの3月に七高を卒業されたのに伴い、会長ご自身も本年5月の任期を以て七高PTAから「卒業」されるとのことですので、七高PTA会員・役員・会長としての長年にわたる七高へのご尽力に対し、同窓会としてもこの場を借りて御礼を申し上げたいと思います。
また鼎談の実施からホームページへの掲載までにかなりの時間がかかったことをお詫び申し上げます。鼎談の実施は「新春」でしたが、掲載は本当の「春」になってしまいました。最後に改めて、上にも書いたPART2の早めの掲載をお約束しておきます。
■関連記事
[【特別企画】2011年新春鼎談 ~学校長、PTA会長と共に七里ガ浜高校の未来を考える~ PART2]