毎年、全国高等学校長会議が開催され、その後、私は母校の大学の教育会議に出席することにしている。
大学のキャンパスに着いたところで思わず“おお~”と相手の顔を見ながら声を上げてしまった。この3月に卒業した七高生2人と偶然に出会ったからである。
「君たちはなんでここに居るのかね」
「私たちはここの学生です。先生こそどうして大学に来たのですか」
生徒たちが私の後輩になっていたことをうっかり失念していた。大学のことや七里ンピックなどの話をしながら記念写真を撮って別れた。
教育会議の間、昔の自分と、現在の学生を比べてみた。法学部生であった私のころは六法全書とドイツ語の辞書は必携であった。ところが今の学生は書物も持たず、スケートボードを片手にキャンパスに居るのである。確かに時代は変わった。スマートフォンから瞬時に必要な情報を入手できる。まさに重く厚い法律書はスマート本(ホォン)に変わったのである。
私は、大学を訪れるとあのころに戻りたい考えることがある。それは決まって大隈重信侯の立像を見上げる時である。口をへの字にした侯は「もっと学びなさい」と私に語りかけているようである。私ももっと学ばなくてはいけないと不断の努力を誓って大学を後にするのである。七高の卒業生と偶然出会ったことから、40年前の青雲の志を抱いていたころの自分に邂逅し、私のノスタルジアは、再び学問の世界に羽ばたこうとしているのである。
平成25年5月29日
校長 吉田幸一